7月9日からNetflixで配信が始まった『ボーイフレンド』。日本初となる「ゲイやバイセクシュアル男性による恋愛リアリティショー」をドラァグクイーンはどう見たのか …… ? スタジオMCとして参加するドリアン・ロロブリジーダさんにお話を伺った 。
7月9日からNetflixで配信が始まった『ボーイフレンド』は、ひとつ屋根の下で9人の“ボーイズ”たちが、1カ月間の共同生活を送りながら友情や恋愛を育くむ番組だ。日本で初めての「ゲイやバイセクシュアル男性による恋愛リアリティショー」でもある 。
大学生やデザイナー、和食料理人などさまざまなボーイズたちが成長していくのを見守るのが、スタジオMCの5人 。
MEGUMIさん、ホラン千秋さん、青山テルマさん、徳井義実さんらと共に名前を連ねるのが、ドラァグクイーンとして活躍するドリアン・ロロブリジーダさんだ 。
ドリアンさんは、大学時代から新宿二丁目に通い始めた当事者でもあり、東京生まれ育ちの江戸っ子。これまで「恋愛リアリティーショーに興味はなかった」というが、その考えが一変したという 。
( 聞き手:嘉島唯 )
「人様の恋愛事情に興味がない」にもかかわらず……
――ドリアンさんは、恋愛リアリティーショーが苦手だったそうですね 。
苦手というか、恋愛リアリティーショー自体に全く興味がありませんでした 。
大前提として、人様の恋愛事情に興味がない。ドラマとか映画みたいな100%フィクションであれば、エンタメのひとつとして楽しめるんですけど、リアリティーショーでは「どうぞ、好きにやってください」みたいな気持ちになってしまう 。
あと、やっぱり恋愛リアリティーショーの多くは「男性と女性」のヘテロセクシュアルな恋愛が映されるので、自分事として捉えられなくって。ピンとこないし、グッとくることもありませんでした 。
――では、なぜ『ボーイフレンド』のスタジオMCの出演を ?
日本で初めての試みじゃないですか。絶対、当事者によるゲイコミュニティの「通訳」は必要だなと思ったからです。もし「通訳」が間違った方向性に進んでしまうと、自分や彼らたちに対する世間のまなざしが変わってしまう。「私がやらなきゃ ! やりたい!」と思って、お受けしました 。
オファーをいただく前から二丁目の界隈で出演者募集みたいな話をチラチラ目にしていたので、話を聞いて「これだったのね」と腑に落ちました。――出演してみていかがでしたか ?
MC陣の中で唯一の当事者になるので、プレッシャーというか、気負っていた部分はあります。変な方向に流れたら、空気が悪くなってもビシッと言うつもりだったので、最初の収録前は「どんだけ気を利かせなきゃいけねぇんだ!?」とナーバスになってましたね 。
誤解が生まれないようにしたいし、決めつけもしたくない。観てくださる皆さんが、この世界を想像しやすいように … 料理を盛り付けるというか、ソテーと付け合わせを分けるぐらいの振る舞いはするつもりでいました 。
でも、1・2話を見たら、もう安心 ! ピンときてグッときたんですよ ! ! ! !
――どこにピンときて、グッときました ?
恋愛はありつつも、それ以外のところもしっかりと掘り下げていて、成長譚である点でしょうか。彼らが共同生活を通して、友情や家族との関わり合いや、コミュニケーションの考え方をアップデートしていくところにグッときました 。
みんなの顔つきがどんどん変わっていくんですよ ! もしこの番組が、修羅場やキャットファイトのような野次馬根性をいたずらに刺激する内容だったら、評価はしていません 。
ボーイズの中にはバイセクシュアルの子もいて、9人の中でもセクシュアリティにグラデーションがあることを描いている点も好きでした。ゲイだけが参加しているわけではないから、この番組では宣伝文句に「男性が恋愛対象」と謳っていると思うんです。これに対してSNSでは「シンプルにゲイって書けばいいじゃねえか」と仰ってる方もいましたけれど、「男性が恋愛対象」と書くことが彼らのスタンスを尊重する姿勢の1つだとも思います 。
うまいなと思うのは、いろんな要素をちゃんと散りばめているところ。海やサウナでみんなの身体をちゃんと見せつつ、恋愛の匂いもさせて、筋肉質な男性が踊るクラブへ行くところもいいですね。二丁目っぽい風景が画面に出たとき「彼らの生活と自分の生活は地続きなんだ」と感じられました 。
――「ピンとくる」記号が散りばめられている、ということでしょうか ?
うーん … … 。確かに「わかってるなぁ」と思う瞬間はありましたけど、自然というか。わかりやすい記号が露骨に配置されているわけではなかったような気がします。昭和のテレビに出てきたような過剰なオネエはいませんでしたし。セクシュアリティに関係なく全世界に向けて発信されるものとして、すごくバランスが良かった 。
「男女の友情は成立するのか?」と同じ問答
――予想外だった点はありました ?
外見のタイプが全員バラバラだったので、恋愛が芽生えず終わる気がしたんですけど、そういかなかったところです。――「恋愛感情が成立しない」と思った ?
そう。私の周りだと、ゲイカップルって外見がなんとなく似ている傾向があるんです。筋肉が好きな人は筋トレに励むし、スレンダーがタイプな人は細身になっていく。でも、9人の外見タイプってバラバラじゃない ?
友情と艶っぽい感覚は、違いますからね。私個人としては、友達だと思ってた人に「お前、こんな表情するのか … … 」みたいな感情が芽生えるシチュエーションに萌えるんですけど(笑)、実はそれこそ1番ハードルが高い。だから、最初は「このメンバーの間に、本当に恋愛が生まれるのかしら」と思ってたんですけど … … 。――『ボーイフレンド』でも「友情と恋愛の壁」の話が出ていましたね。「よき相談相手ではあるけれど、デートする仲ではない」とか「憧れであって、恋愛ではない」とか 。
よく耳にする「男女の友情は成立するのか?」みたいな問答と一緒で、ダメな人はダメだし、できる人はできる。ゲイの恋愛もケースバイケースです。――そうですね。マッチングアプリで使うセクシーな写真を見て、嫌悪感を覚えるメンバーもいましたし 。
そうそう。ゲイも人それぞれ。若い時にお盛んな時期があったり、ある程度年齢を重ねても刹那を楽しむ人がいたり。燃え上がるような恋が好きな人もいるし、落ち着いた関係を好む人もいます。私は10代の頃から二丁目に行ってたので、今さら一晩の関係はもういいというか … … 今は「オネエだけで、くっちゃべってたいわ」みたいな感じですけど。アハハ 。
――特に印象に残ってるメンバーはいますか ?
えー ! 全員に幸せになってもらいたいので、語り尽くしたら時間が足りなくなりますよ ! ! 強いて言うなら、ユーサクには驚いたかな。彼はゲイクラブのステージ上で踊るGOGOダンサーとしてすごく人気で、私も仕事でしょっちゅう一緒になるんですけど、ユーサクを昔から知っているからこそ「こんな一面をみせるのか!」と膝を打ちました。――登場シーンはかなりギラギラしてるかと思いきや …… 。
静かなのよね(笑)。ステージ上では、まごうことなきスターなんですけど、本当は絵を描くのが好きで内向的。そういう意外な部分にフィーチャーするのがいいなと思いました 。
やっぱりシュン …… ? 全10話において、彼に振り回されっぱなしでした ! 人を寄せ付けないタイプなのかと思いきや、対話を通して変わっていくんです。私は家でパートナーと一緒にこの番組を見ていたんですけど、彼も「この子、すげえ」と驚いてましたね。ずーっとハラハラ、モヤモヤさせられて … … 最後に泣かされますから ! ! !
「日本はまだこの段階か…」と思うことも
――ドリアンさんは20年ほど前からドラァグクイーンとして活動されていますが、当時と今とで何が変わったと思います ? メディアでの扱われ方、偏見、制度 … … いろいろ変わったと思いますが 。
もう本当にいろいろ変わりましたよ。新宿二丁目という町の客層も様相も変わりましたし、メディアでの描かれ方も様変わりしました。それこそ、こういう番組自体が生まれること、そこに私がMCとしてアサインされることは、時代が大きく動きつつある証左だと思います 。
ただ、まだ変わっていない部分はありますし、不平等が続いている状態でもある。例えば、この番組の情報が初めて出た時に、さまざまなリアクションがある中で「まだ日本はこの段階なのか … … 」と悲しくなるようなコメントも散見されました。無理解から起きる偏見、排斥はまだいくらでもあるし、そこを守る仕組みが追いついているかというと、そうでもない。でも、今、変わりつつある、変わってきている。その過渡期の真っ最中にいる感覚はあります 。
――番組内でシュンさんが「結婚して、里親になりたい」と話していたのも印象的でした 。
ね。シュンには家族に対する特別な思いがあるから … … 。家族のあり方だって、お父さんが2人いて、子どもがいる形も今後増えてくると思います。普通なんてないんですよね。みんなそれぞれ。家族の形に対する考え方や、意味も変わってきていると感じます 。
『 ボーイフレンド』は、日本で初めての試みゆえに注目を集めている部分はあると思います。でも、20年後、30年後に2024年を振り返って「え ? そんなことで驚いていたの ? こんな時代があったんだね」と思える未来への第一歩になることを願ってます 。
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